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朝遊碧海暮宿蒼梧

知识之败 慕浮名而不务潜修也 品节之败 慕虚荣而不甘枯淡也

 
 
 

日志

 
 

【日本】芥川龙之介:《罗生门》  

2011-09-05 00:04:42|  分类: 侏儒的話 |  标签: |举报 |字号 订阅

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中文 译文

       某日傍晚,有一家将,在罗生门下避雨。 

  宽广的门下,除他以外,没有别人,只在朱漆斑驳的大圆柱上,蹲着一只蟋蟀。罗生门正当朱雀大路,本该有不少戴女笠和乌软帽的男女行人,到这儿来避雨,可是现在却只有他一个。 

  这是为什么呢,因为这数年来,接连遭了地震、台风、大火、饥懂等几次灾难,京城已格外荒凉了。照那时留下来的记载,还有把佛像、供具打碎,将带有朱漆和飞金的木头堆在路边当柴卖的。京城里的情况如此,像修理罗生门那样的事,当然也无人来管了。在这种荒凉景象中,便有狐狸和强盗来乘机作窝。甚至最后变成了一种习惯,把无主的尸体,扔到门里来了。所以一到夕阳西下,气象阴森,谁也不上这里来了。 

  倒是不知从哪里,飞来了许多乌鸦。白昼,这些乌鸦成群地在高高的门楼顶空飞翔啼叫,特别到夕阳通红时,黑魆魆的好似在天空撒了黑芝麻,看得分外清楚。当然,它们是到门楼上来啄死人肉的——今天因为时间已晚,一只也见不到,但在倒塌了砖石缝里长着长草的台阶上,还可以看到点点白色的鸟粪。这家将穿着洗旧了的宝蓝袄,一屁股坐在共有七级的最高一层的台阶上,手护着右颊上一个大肿疮,茫然地等雨停下来。 

  说是这家将在避雨,可是雨停之后,他也想不出要上哪里去。照说应当回主人家去,可是主人在四五天前已把他辞退了。上边提到,当时京城市面正是一片萧条,现在这家将被多年老主人辞退出来,也不外是这萧条的一个小小的余波。所以家将的避雨,说正确一点,便是“被雨淋湿的家将,正在无路可走”。而且今天的天气也影响了这位平安朝①家将的忧郁的心情。从申末下起的雨,到西时还没停下来。家将一边不断地在想明天的日子怎样过——也就是从无办法中求办法,一边耳朵里似听非听的听着朱雀大路上的雨声。 

   ①平安朝,公元七九四年—一九二年。 

  而包围着罗生门从远处飒飒地打过来,黄昏渐渐压到头顶,抬头望望门楼顶上斜出的飞檐上正挑起一朵沉重的暗云。 
  要从无办法中找办法,便只好不择手段。要择手段便只有饿死在街头的垃圾堆里,然后像狗一样,被人拖到这门上扔掉。倘若不择手段哩——家将反复想了多次,最后便跑到这儿来了。可是这“倘若”,想来想去结果还是一个“倘若”。原来家将既决定不择手段,又加上了一个“倘若”,对于以后要去干的“走当强盗的路”,当然是提不起积极肯定的勇气了。 

  家将打了一个大喷嚏,又大模大样地站起来,夜间的京城已冷得需要烤火了,风同夜暗毫不客气地吹进门柱间。蹲在朱漆圆柱上的蟋蟀已经不见了。 

  家将缩着脖子,耸起里面衬黄小衫的宝蓝袄子的肩头,向门内四处张望,如有一个地方,既可以避风雨,又可以不给人看到能安安静静睡觉,就想在这儿过夜了。这时候,他发现了通门楼的宽大的、也漆朱漆的楼梯。楼上即使有人,也不过是些死人。他便留意着腰间的刀,别让脱出鞘来,举起穿草鞋的脚,跨上楼梯最下面的一级。 

  过了一会,在罗生门门楼宽广的楼梯中段,便有一个人,像猫儿似的缩着身体,憋着呼吸在窥探上面的光景。楼上漏下火光,隐约照见这人的右脸,短胡子中长着一个红肿化脓的面疤。当初,他估量这上头只有死人,可是上了几级楼梯,看见还有人点着火。这火光又这儿那儿地在移动,模糊的黄色的火光,在屋顶挂满蛛网的天花板下摇晃。他心里明白,在这儿点着火的,决不是一个寻常的人。 

  家将壁虎似的忍着脚声,好不容易才爬到这险陡的楼梯上最高的一级,尽量伏倒身体,伸长脖子,小心翼翼地向楼房望去。 

  果然,正如传闻所说,楼里胡乱扔着几具尸体。火光照到的地方挺小,看不出到底有多少具。能见到的,有光腚的,也有穿着衣服的,当然,有男也有女。这些尸体全不像曾经活过的人,而像泥塑的,张着嘴,摊开胳臂,横七竖八躺在楼板上。只有肩膀胸口略高的部分,照在朦胧的火光里;低的部分,黑漆漆地看不分明,只是哑巴似的沉默着。 

  一股腐烂的尸臭,家将连忙掩住鼻子,可是一刹间,他忘记掩鼻子了,有一种强烈的感情,夺去了他的嗅觉。 

  这时家将发现尸首堆里蹲着一个人,是穿棕色衣服、又矮又瘦像只猴子似的老婆子。这老婆子右手擎着一片点燃的松明,正在窥探一具尸体的脸,那尸体头发秀长,量情是一个女人。 

  家将带着六分恐怖四分好奇的心理,一阵激动,连呼吸也忘了。照旧记的作者的说法,就是“毛骨悚然”了。老婆子把松明插在楼板上,两手在那尸体的脑袋上,跟母猴替小猴捉虱子一般,一根一根地拔着头发,头发似乎也随手拔下来了。 

  看着头发一根根拔下来,家将的恐怖也一点点消失了,同时对这老婆子的怒气,却一点点升上来了——不,对这老婆子,也许有语病,应该说是对一切罪恶引起的反感,愈来愈强烈了。此时如有人向这家将重提刚才他在门下想的是饿死还是当强盗的那个问题,大概他将毫不犹豫地选择饿死。他的恶恶之心,正如老婆子插在楼板上的松明,烘烘地冒出火来。 

  他当然还不明白老婆子为什么要拔死人头发,不能公平判断这是好事还是坏事,不过他觉得在雨夜罗生门上拔死人头发,单单这一点,已是不可饶恕的罪恶。当然他已忘记刚才自己还打算当强盗呢。 

  于是,家将两腿一蹬,一个箭步跳上了楼板,一手抓住刀柄,大步走到老婆子跟前。不消说,老婆子大吃一惊,并像弹弓似的跳了起来。 
  “吠,哪里走!” 

  家将挡住了在尸体中跌跌撞撞地跑着、慌忙逃走的老婆子,大声吆喝。老婆子还想把他推开,赶快逃跑,家将不让她逃,一把拉了回来,俩人便在尸堆里扭结起来。胜败当然早已注定,家将终于揪住老婆子的胳臂,把她按倒在地。那胳臂瘦嶙嶙地皮包骨头,同鸡脚骨一样。 

  “你在干么,老实说,不说就宰了你!” 

  家将摔开老婆子,拔刀出鞘,举起来晃了一晃。可是老婆子不做声,两手发着抖,气喘吁吁地耸动着双肩,睁圆大眼,眼珠子几乎从眼眶里蹦出来,像哑巴似的顽固地沉默着。家将意识到老婆子的死活已全操在自己手上,刚才火似的怒气,便渐渐冷却了,只想搞明白究竟是怎么一回事,便低头看着老婆子放缓了口气说: 

  “我不是巡捕厅的差人,是经过这门下的行路人,不会拿绳子捆你的。只消告诉我,你为什么在这个时候在门楼上,到底干什么?” 

  于是,老婆子眼睛睁得更大,用眼眶红烂的肉食鸟一般矍铄的眼光盯住家将的脸,然后把发皱的同鼻子挤在一起的嘴,像吃食似的动着,牵动了细脖子的喉尖,从喉头发出乌鸦似的嗓音,一边喘气,一边传到家将的耳朵里。 

  “拔了这头发,拔了这头发,是做假发的。” 

  一听老婆子的回答,竟是意外的平凡,一阵失望,刚才那怒气又同冷酷的轻蔑一起兜上了心头。老婆子看出他的神气,一手还捏着一把刚拔下的死人头发,又像蛤螟似的动着嘴巴,作了这样的说明。 

  “拔死人头发,是不对,不过这儿这些死人,活着时也都是干这类营生的。这位我拔了她头发的女人,活着时就是把蛇肉切成一段段,晒干了当干鱼到兵营去卖的。要不是害瘟病死了,这会还在卖呢。她卖的干鱼味道很鲜,兵营的人买去做菜还缺少不得呢。她干那营生也不坏,要不干就得饿死,反正是没有法干嘛。你当我干这坏事,我不干就得饿死,也是没有法子呀!我跟她一样都没法子,大概她也会原谅我的。” 

  老婆子大致讲了这些话。 

  家将把刀插进鞘里,左手按着刀柄,冷淡地听着,右手又去摸摸脸上的肿疮,听着听着,他的勇气就鼓起来了。这是他刚在门下所缺乏的勇气,而且同刚上楼来逮老婆子的是另外的一种勇气。他不但不再为着饿死还是当强盗的问题烦恼,现在他已把饿死的念头完全逐到意识之外去了。 

  “确实是这样吗?” 

  老婆子的话刚说完,他讥笑地说了一声,便下定了决心,立刻跨前一步,右手离开肿疱,抓住老婆子的大襟,狠狠地说: 

  “那末,我剥你的衣服,你也不要怪我,我不这样,我也得饿死嘛。” 

  家将一下子把老婆子剥光,把缠住他大腿的老婆子一脚踢到尸体上,只跨了五大步便到了楼梯口,腋下夹着剥下的棕色衣服,一溜烟走下楼梯,消失在夜暗中了。 

  没多一会儿,死去似的老婆子从尸堆里爬起光赤的身子,嘴里哼哼哈哈地、借着还在燃烧的松明的光,爬到楼梯口,然后披散着短短的白发,向门下张望。外边是一片沉沉的黑夜。 

  谁也不知这家将到哪里去了。 


日文 原版

ある日の暮方の事である。一人の下人(げにん)が、羅生門(らしょうもん)の下で雨やみを待っていた。

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗(にぬり)の剥(は)げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路(すざくおおじ)にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠(いちめがさ)や揉烏帽子(もみえぼし)が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。

何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風(つじかぜ)とか火事とか饑饉とか云う災(わざわい)がつづいて起った。そこで洛中(らくちゅう)のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹(に)がついたり、金銀の箔(はく)がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪(たきぎ)の料(しろ)に売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸(こり)が棲(す)む。盗人(ぬすびと)が棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。

その代りまた鴉(からす)がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾(しび)のまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻(ごま)をまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄(ついば)みに来るのである。――もっとも今日は、刻限(こくげん)が遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞(ふん)が、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖(あお)の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰(にきび)を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。

作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微(すいび)していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申(さる)の刻(こく)下(さが)りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日(あす)の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。

雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍(いらか)の先に、重たくうす暗い雲を支えている。

どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑(いとま)はない。選んでいれば、築土(ついじ)の下か、道ばたの土の上で、饑死(うえじに)をするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊(ていかい)した揚句(あげく)に、やっとこの局所へ逢着(ほうちゃく)した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人(ぬすびと)になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。

下人は、大きな嚔(くさめ)をして、それから、大儀(たいぎ)そうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶(ひおけ)が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗(にぬり)の柱にとまっていた蟋蟀(きりぎりす)も、もうどこかへ行ってしまった。

下人は、頸(くび)をちぢめながら、山吹(やまぶき)の汗袗(かざみ)に重ねた、紺の襖(あお)の肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患(うれえ)のない、人目にかかる惧(おそれ)のない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子(はしご)が眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄(ひじりづか)の太刀(たち)が鞘走(さやばし)らないように気をつけながら、藁草履(わらぞうり)をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。

それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子(ようす)を窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿(うみ)を持った面皰(にきび)のある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括(くく)っていた。それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛(くも)の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。

下人は、守宮(やもり)のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平(たいら)にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗(のぞ)いて見た。

見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸(しがい)が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。勿論、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏(こ)ねて造った人形のように、口を開(あ)いたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖(おし)の如く黙っていた。

下人(げにん)は、それらの死骸の腐爛(ふらん)した臭気に思わず、鼻を掩(おお)った。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。

下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲(うずくま)っている人間を見た。檜皮色(ひわだいろ)の着物を着た、背の低い、痩(や)せた、白髪頭(しらがあたま)の、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片(きぎれ)を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。

下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時(ざんじ)は呼吸(いき)をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身(とうしん)の毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱(しらみ)をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。

その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、語弊(ごへい)があるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死(うえじに)をするか盗人(ぬすびと)になるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片(きぎれ)のように、勢いよく燃え上り出していたのである。

下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。

そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄(ひじりづか)の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。

老婆は、一目下人を見ると、まるで弩(いしゆみ)にでも弾(はじ)かれたように、飛び上った。

「おのれ、どこへ行く。」

下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞(ふさ)いで、こう罵(ののし)った。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ(ね)じ倒した。丁度、鶏(にわとり)の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。

「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」

下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘(さや)を払って、白い鋼(はがね)の色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球(めだま)が(まぶた)の外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗(しゅうね)く黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後(あと)に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。

「己(おれ)は検非違使(けびいし)の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄(なわ)をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」

すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。(まぶた)の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏(のどぼとけ)の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉(からす)の啼くような声が、喘(あえ)ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。

「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘(かずら)にしようと思うたのじゃ。」

下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑(ぶべつ)と一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色(けしき)が、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇(ひき)のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。

「成程な、死人(しびと)の髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸(しすん)ばかりずつに切って干したのを、干魚(ほしうお)だと云うて、太刀帯(たてわき)の陣へ売りに往(い)んだわ。疫病(えやみ)にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料(さいりよう)に買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」

老婆は、大体こんな意味の事を云った。

下人は、太刀を鞘(さや)におさめて、その太刀の柄(つか)を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰(にきび)を気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。

「きっと、そうか。」

老婆の話が完(おわ)ると、下人は嘲(あざけ)るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰(にきび)から離して、老婆の襟上(えりがみ)をつかみながら、噛みつくようにこう云った。

「では、己(おれ)が引剥(ひはぎ)をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」

下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色(ひわだいろ)の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。

しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪(しらが)を倒(さかさま)にして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々(こくとうとう)たる夜があるばかりである。

下人の行方(ゆくえ)は、誰も知らない。


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